2017年11月にアブダビにオープンしたルーヴル・アブダビ美術館。フランスのルーブル美術館の初の国外別館。開館以来、「別館」の域を越えた展示や建築デザインだとあちこちで語られていて、ずっと行きたいと思っていました。
実際にとても素晴らしい美術館で、アブダビ滞在2日間の間に2回訪れて、展示と建築を十二分に楽しみました。
地元の土地と文化から発想を得た建築:青い海に浮かぶドームと白いキューブ
設計者はジャン・ヌーヴェル。彼の建築は、光の反射や透過を美しく見せることで知られていて、日本では東京・汐留の電通本社ビルが有名です。この美術館のデザインは、アラブの旧市街から着想を得ているそうです。強烈な日差し、その日差しを和らげるオアシスのヤシの枝葉、真っ白な箱型の家。美術館に足を踏み入れると、これらの要素が目に飛び込んできます。白い箱型の建物が青い海に浮かび、その上を網状のドームが覆います。
光が雨のようにこぼれる館内
館内では、網状のドームが強烈な日差しを和らげて、壁とフロアに「光の雨」を降らせます。オープン・エアのエリアには、海からそよ風が入ってきて、砂漠の真ん中にいることを忘れそう。青い海から反射する光が、ドームに青い光と影のコントラストをつくります。太陽の傾きが変わると、壁とフリアに注ぐ光の模様が少しずつ変わっていきます。
光の模様だけでなく、色も変わります。日中に青い海から反射する青い光は、夕方にオレンジ色へと変わっていきます。
コレクションが見せる「人類の普遍性」
常設展のテーマは、「See humanity in a new light」、人類の普遍性を見せるという肩書きを読んだ時は、壮大すぎるテーマで正直ピンときませんでした。でも、その答えは一つ目の部屋ですぐに見つかりました。一瞬でこの美術館に惚れてしまいました。
これが1つ目の展示、「母であること - 母親が子供に愛情を見せる時の“身ぶり”はいつも同じ。それは何故?」とあって、異なる地域と時代の母親が子供を抱く像が並びます。母親が子供を抱く身ぶりは、3つともよく似ています。
そこで「母から子への愛情表現」が時代と地域に関わらず同じということにハッと気づきます。3つの地域と時代が異なる彫り物を並べるだけで、人類の普遍性の一面を見せてしまうなんてすごい!
一つ目の部屋では、人類の普遍性に気づかせてくれる展示が続きます。このコレクションは、「これらの水差しに共通点が多いのは何故?水の普遍性がそうさせる?」と問います。水というモノが同じであれば、それを貯めたり注ぐという行為が同じようになるだろうこと、だから利便性や美しさを求める形もと同じようになったのだろうという説明が続きます。
その後の常時展示でも、時代や地域を超えた展示が続きます。特に印象深かったのは、紀元前2120年頃のイラクの王の像。黒い石の彫り物で、王が佇んでいるというシンプルなセットアップなのですが、力強く上品なオーラが出ているのです。私たちが惹きつけられる人となりというのは古代から変わらないのかも、と思いました。
さらに時代が下って、人類が長距離を旅できるようになって、「地球」の姿に興味を持ち、それを「地図」で表すというコトを始めたのは西暦1500年頃のこと。世界中で、地図や地球儀が作られました。自分たちが立つ大地への好奇心も人類の普遍性のひとつ。これは、その展示室にあった日本地図。1960年頃に作成されたものだそうです。当時は、今のように正確な測定器がなかったのにも関わらず、なかなかの出来です。しかも美しい。正確さよりもむしろ、自分たちが立つ大地への好奇心とそれを表現したいという感情が込められている気がしました。
ルーブル・アブダビは、私が今まで行ったことがある美術館の中で、特に気に入った美術館の一つになりました。建築も展示も素晴らしい。私の場合、素晴らしい美術館に行くと、次々に訪れる刺激を吸収し続けるだけの集中力が続かず、何回も休憩したり、日程に余裕がある時は複数回に分けて訪れます。実際に今回も、2日に渡って2回訪れました。おすすめの美術館です。
アクセス:アブダビ市内。市内からタクシーで5-20分。
過ごす時間:3-6時間